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〔事例2〕(電子制御式A/T)
 Dレンジで発進した時の、1速から2速へのシフトアップが遅い事があるという、'96年式の日産ラルゴ(E-W30、エンジン型式KA24、走行10万km)の不具合事例。
 最近中古車で購入したユーザーからの訴えで、中古車の保証でA/Tをリビルト品と交換して納車したが、まだ直っていないとの事で持ち込まれてきた。
 走ってみると正常に変速しており、この状態では不具合現象が確認できないので、どのような状況で発生するのか、詳しく問診をおこなってみた。
 その結果、朝エンジンを掛けてすぐに走り出した時に発生しやすい事が判った。
 2つの車速センサーと、スロットル・ポジションセンサーの信号端子にオシロスコープをセットし、不具合の再現に備えた。
 翌朝ユーザーがいうとおりの状況で走らせてみると、不具合現象が再現できた。
 この時の車速信号は2つ共欠落しており、しばらくしてから片方が正常に復帰し、それからは正しく変速するようになった。
 センサーの信号観測とは別に、アクチェータであるシフトソレノイドへの通電状態をモニターするための、テストランプを接続していたので、それを見るかぎりはシフトソレノイドへの通電パターンは、1速のままであった。
 車速センサーは、トランスミッション側とスピードメータ内にそれぞれ設けられており、仮に片方が故障しても、変速に支障がないようにという「フェイル・セーフ」の考え方である。
 今回の場合は、スピードメータ側の車速信号は常に欠落しており、加えてトランスミッション側の信号も時々欠落してしまう事で、ECUは車速ゼロと判断して、1速固定になったものである。
 ここまでの切り分け点検で、トランスミッションの機械的な故障ではなく、電子制御系の故障である事が判る。
 A/Tをリビルト品と載せ換えているのに症状が以前と変わらないのが疑問なので、作業者に尋ねてみると、リビルトA/Tにはセンサー類は取り付けられていないので、前のA/Tの物を付け直した事が判明した。
 それであれば今回の不具合は納得がいく。
 以上の診断作業の結果、2つの車速センサーを交換しなければならないが、トランスミッション側はセンサー単体であるが、スピードメータ側はメーターAssyでの交換になる。従ってオドメータの表示が変わってしまうので、その経緯を記録簿等に記録しておかないと、あとで誤解を招きかねない。
 「A/Tが変速しないからA/Tを交換してみよう」という短絡的な判断をするのではなく、システムがどうなっているかを正しく理解して、電気信号等を計測するといった科学的な診断をおこなわないと、悪くもない高額な部品を交換してしまうし、その工賃だって無駄である。
 ますます電子制御化が進む今日の自動車を整備するには、「情報」と「計測器」というソフトとハードの両方を欠く事はできないのである。

《技術相談窓口》
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