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2006年4月
点滅するエアバッグ警告灯
〔アナログとデジタルテスターの使い分け〕
 エアバッグ警告灯が点滅するという、'98年式のムーヴ(E-L600S、エンジン型式EF、走行距離8万km)のトラブル事例を紹介する。
  この車のエアバッグは運転席のみで、センサおよびECUとインフレータ(スクイブ)が一体でステアリングホイール内に取り付けられている、「一括搭載」方式である。
  通常であれば、ダイアグノーシス・コードを読み取るための操作をする事で、不具合系統の絞り込みができるが、一括搭載方式の場合はダイアグノーシス用の端子は存在しない。
  では、どうやってダイアグノーシス・コードを点検するかというと、現時点での警告灯の状態がコード表示を意味している。
  図1に示すように、正常時を除く3つのパターン、「不灯」、「点滅」、「常灯」になれば、それぞれに決められた項目の系統の異常を表わしている。
  今回の場合は「点滅」なので、電源系(IG1またはIG2)の異常を示していることになる。
  ステアリングホイール内にECUやインフレータを取り付けている訳であるから、必要な回路は電源とアースと、警告灯の3つである。(図2)
  これらをステアリングホイールが回転しても確実に電気を流せるように、従来のホーン回路のようなスリップリングではなく、ケーブルリールを用いている事は、周知のとおりである。
  さっそく、電源回路の電圧をエアバッグ本体のコネクタを外して測定してみると、IG1が12Vあるのに対して、IG2は9V前後で変動していた。
  次にケーブルリールより上流側のコネクタ部分で測定してみると、両方共12Vだった。
  この事から、不具合はケーブルリール内の接触不良(断線しかかり)と判断される。
  回路を切り離した状態で電圧を測った場合は、その途中に接触抵抗が存在していても、その影響を受けずに電源電圧が表示されるのが一般的であるが、これは測定する回路の接触抵抗の値が小さく、使用する電圧計の内部抵抗が大きい場合である。
  ところが今回のように、回路を切り離しているにもかかわらず測定した電圧値が低いという事は、接触抵抗の値がかなり大きいと判断できる。
  なぜなら、図3に示すように切り離した回路に電圧計を接続する事で、電気を流す回路が成立し、それによって『電圧降下』が生じるからである。
  今回の測定に使った電圧計は、内部抵抗が100KΩ/Vのアナログテスターであるが、これより内部抵抗の小さい普及クラスのテスターを使った場合は、さらに測定値は低くなる。
  もし仮に内部抵抗が格段に大きい、デジタルテスターを用いていたら、電圧の変化に気がついていなかったかもしれない。
  このような場合は、回路を切り離さずに測定する必要がある。
  サーキットテスターを使う場合、比較的電流の大きい「電気回路」の測定には内部抵抗が大きくないテスターでもかまわないが、電流が小さい「電子回路」の測定には、ECUに影響を与えない内部抵抗の大きいテスターを使い分ける必要がある。
  まちがっても、電子回路にテストランプを接続するなどという、原始的な作業はしてはならない。
  電気系統の故障診断には、『豊かな想像力』と『正しい計測』が不可欠である。
  頭の中に描いた回路で、正常な状態の電圧値を想像し、実際の測定値と比較する事で、異常な部分を絞り込み、原因を見つける事が重要なポイントである。
《技術相談窓口》
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