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2008年5月
暖機時のみエンジンがかからない
〈異常検出されないセンサの点検要領〉
 エンジンが冷えている時は良いが、暖機後にエンジンを停めて5〜10分後に再始動する時に、エンジンが掛からない事があるという、’95年式のインスパイア(E-UA2、エンジン型式G25A、走行距離15万km)のトラブル事例。
  技術相談を持ちかけてきたメカニックの話によると、スパークプラグがびしょ濡れになっていたので、点火系に問題があると思い、イグニッション・コイルをはじめとする点火系のほとんどの部品を交換してみたが、不具合現象は改善されないとの事である。
  エンジン回転中に、エンジンの警告灯が点灯する事はないらしいが、一応念のためダイアグノーシス・コードの点検をおこなってみると、異常コードの表示はなかった。
  ユーザーが言う不具合現象が発生する条件にあてはめてみると、始動不能の症状が現われた。
  クランキングを続けているとガソリン臭くなってきたので、アクセル・ペダルを全開に保ってクランキングし直してみるが、一向に掛かる気配がない。
  基本点検をおこなってみると、点火火花は力強くスパークしているものの、スパーク・プラグはびしょ濡れになっていた。
  どうやら不具合の原因は、始動時の燃料が供給過多になっているものと思われる。
  エンジン回転中には全く不具合はないのに、暖機後の始動時にだけ不具合が発生する要因はなんだろうか。
  燃料の圧力に問題がない事を確認した上で、燃料噴射量の決定に大きく関係するセンサ類の点検をおこなってみる事にした。
  その結果、水温センサの信号電圧が急変する事が判った。(図1参照)
  エンジン回転中にこれほどの変化があれば、空燃比が大きく変動して不調になるはずなのに、それは全く感じられない。
  しかし、その状態でエンジンを停めてから再始動すると、フューエル・インジェクターの噴射時間は100msに達する程長くなっている事が、オシロスコープで観測できた。
  水温センサの代りに、暖機時に相当する抵抗値の固定抵抗を取り付けてクランキングすると、正常に始動できるようになった。
  これまでであれば、エンジン回転中に水温センサ回路に可変抵抗を接続して、強制的に空燃比を変化させる事でエンジンの様子を調べたりしていたが、ECUのマップに水温センサ信号の急変は無視するプログラムが組み込まれている近年の車の場合にあっては、そのような手法は通用しない。
  考えてみれば、エンジンの冷却水の温度が一気に数十度も変化する事はありえない訳だから、あたりまえなのかもしれない。
  今回のように実際の冷却水温が一定であるのに対して、水温センサの信号が急変した時に、前述のプログラムがあるからこそ、エンジン不調が発生しなかった訳である。
  しかし、一度イグニッション・スイッチをOFFにするとECUがリセットされるため、次にイグニッション・スイッチをONにした時の水温センサ信号電圧によって検出した冷却水温を基に始動増量をおこなうため、暖機後のエンジンに対して冷機時の燃料を噴射するため、過濃空燃比となって始動不能に陥ったものである。
  特性ズレを起こしていた水温センサを交換する事で、不具合は解消した。
  ちなみに、このような場合であってもダイアグノーシスに異常コードが検出されていなかったのは、図2に示す異常検出範囲まで変動していなかったからである。
  すなわち、ダイアグノーシスに検出されるのは、断線に近い状態か短絡に近い状態でしかないのであり、今回のような特性ズレを見きわめるには、正常な状態を知っておく必要がある事と、それらのデータ収集の努力を惜しまない事である。
≪技術相談窓口≫
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