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2009年7月
電圧降下によるエンジン・トラブル

 暖機後にエンストする事があり、エンスト後はすぐに再始動できないという、'02年の日産ADバン(UB-VFY11、エンジン型式QG15、走行距離4万km)のトラブル事例を紹介する。
  技術相談をもちかけてきたメカニックの話によると、始動できない時はフューエル・インジェクタは作動しているが、点火火花が飛んでいない事が確認できたらしい。
  ちなみに、ダイアグノーシス・コードは何も異常を表示していなかった。
  点火システムは独立点火方式で、そのすべてが作動しないとなると、共通するのは電源とアース回路である。
  イグニッション・スイッチをONにした状態で、点火回路の電源端子の電圧を測定してみると12Vの電圧が確保されていて、アース回路の導通も問題なかった。
  次にECUからの点火指示信号をオシロスコープで波形観測してみると、電圧の変化は確認する事ができた。
  ここまでの点検内容から考えると、どこにも悪い所がない事になるが、現実に4つの点火コイルすべてがスパークしていない事実から、診断が充分でないという事のようである。
  オシロスコープのプローブを電源回路とアース回路にセットしてクランキングしたところ、電源電圧が変動している事が確認できた。(図1)
  クランキングしない時は点火1次回路には電流が流れないので、回路の途中に接触抵抗があっても電圧降下は発生しないが、クランキングしている時はECUがイグナイタをONさせて1次電流を流すために、電圧降下が生じる訳である。
  クランキングを続けながら電圧降下の部位を特定する訳にはいかないので、電源端子に5Wの電球を接続して回路を成立させたままにして電圧を測定していくと、図2に示すようにヒューズからV2間に存在するカプラ部分で、電圧降下が発生していた。
  端子が錆びたり、端子同士の接続が緩くなっている訳ではなくて、ただ単にカプラの嵌合が不充分で、ロックが効いていない状態になっていた。
  事故修理をおこなった形跡もなく、自然に抜ける訳もないのに何故抜けかかっていたのかが不明である。
  もしかしたら新車の時から完全に入っていなかったのかもしれない。
  エンジン暖機後にしか不具合が発生しなかった理由は、ワイヤハーネスの被覆が熱によって柔らかくなって、ハーネスの自重でたるんで、カプラを引き抜く方向に作用するからである。
  不具合が発生する要因が「熱」と「振動」と「湿度」である事を過去に述べたが、現実に起きた事でそれが立証できた。
《技術相談窓口》

 
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