実践!整備事例一覧 > 整備事例  

Page 1
2015年4月
複雑化するシステム

シートベルト非装着警告灯が点灯しないという、平成19年式クラウン(車両型式DBA-GRS182、エンジン型式3GR)のトラブル事例を紹介する。

車検で入庫したのだが、シートベルト非装着警告灯が点灯しない。シートベルトのバックルS/W(メーカーの修理書上では、「フロントシートインナベルトASSY」という表記)のカプラを外しても、プラス側とマイナス側の配線をショートさせても警告灯は点灯しないという。

まずは本当に単純な回路であるかどうかを確認するために、ファイネスで回路図を確認してみた。

その結果、図のようにセンターエアバッグセンサーASSYというユニットがバックルS/Wの信号を処理し、メーターC/Uに情報を出力するというシステムであった。

加えてバックルS/Wも単純なON/OFF回路ではないことが判明した。

シートベルトの装着/非装着の判定は、センターエアバッグセンサーASSYからバックルS/Wへ電流を流し、その電流の量の変化で判定しているようである。

このような回路の場合、S/Wの単体点検はS/Wに直接電流を流し、シートベルトを装着した場合とそうでない場合の電流の変化を調べるということになるのだが、現実的には難しい。

何とか不具合箇所の切り分けが出来ないものかと考え外部診断機を接続してみたところ、センターエアバッグセンサーASSYのデータモニタをすることが出来た。

シートベルトを装着していないにもかかわらず、外部診断機上ではシートベルトの装着判定欄が「装着」となっていた。この状態であれば、メーター内の警告灯が消灯しているのもうなずける。

次にメーターC/Uにアクセスしてみた。

いろいろな項目を調べているとその中に「アクティブテスト」の項目があり、各種警告灯の作動確認ができるようになっていた。

そこで、シートベルト非着用警告灯のアクティブテストを実行したところ、警告灯は点滅し、LEDの不良も無いことが分かった。

ここまで切り分ける事が出来れば、原因はシートベルトのバックルS/W が装着判定したまま壊れているということになるのだが、センターエアバッグセンサーASSYの不良(誤判定)ではないという確証がほしい。

何とかS/W をごまかして、シートベルトを「非装着」判定にすることが出来ないかと思い、ためしにS/Wの抵抗を測定してみた。

結果は、順方向が4.3MΩ、逆方向が10MΩ以上であった。

この抵抗値を変化させればあるいは判定をごまかす事が出来るかもしれないと考え、ダミーの抵抗を入れてみることにした。

S/W のカプラを切り離し、S/Wの代わりに色々な抵抗を入れてみたところ、約5KΩ〜10KΩの抵抗を入れると「非装着判定」、約500Ω〜1.5KΩの抵抗を入れると「装着判定」となるようだ。

上記の抵抗レンジ以外のものを入れると、「B1655」(フロントシートインナベルト)というDTCが出力され、フェールセーフに入り、シートベルト非着用警告灯が消灯したままとなってしまうこともわかった。

7.5KΩの抵抗を入れてシートベルトを「非装着」の判定とし、イグニッションキーをONにすると、メーター内のシートベルト非着用警告灯が点滅したことから、センターエアバッグセンサーASSYの不良も無いと判断した。

以上の結果を踏まえ、シートベルトのバックルS/Wを交換して下さいと伝えて作業を終えた。

後日、シートベルトのバックルS/Wを交換したところ、正常に作動するようになったとの連絡があった。

警告灯や表示灯を一つ作動させるために、ここまで複雑化されたシステムになってきたのだと実感したとともに、外部診断機がなければ本当に何もできなくなる日が来るなと感じた一件であった。

※注記※

今回使用したダミー抵抗は、あくまでもシステムの作動確認のために一時的に使用したものです。実際のバックルS/W の内部には図のようにダイオードやコンデンサが使用されています。

このため、バックルS/W単体で抵抗を測定して、約5KΩ〜10KΩであれば「非装着状態」、約500Ω〜1.5KΩであれば「装着状態」という判断はできません。

《技術相談窓口》


実践!整備事例一覧 > 整備事例
UP