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2016年10月
低回転域は正常なのに、回転を上げると失火

車は平成13年式アクティ(車両型式GD-HH5、エンジン型式E07Z)で、エンジンが吹き上がらなくなることがあるというトラブル事例を紹介する。

依頼者の工場では、走行距離も20万キロを超えており、また、燃料不足によって吹き上がらないだろうということで、燃料ポンプを交換したようである。

話を聞いた限りでは、やはり燃料不足のように感じたので、燃圧計と外部診断機をセットし、いつ不具合が発生してもすぐに点検出来るようにしておいた。

エンジンをかけたまま他の作業を行い、時々、レーシングを行っていると、1時間ほどで不具合が発生。

燃圧計と外部診断機はセットしたままだったので、燃圧、水温センサー、バキュームセンサー、O2センサー等の燃料噴射量に関するデーターを調べたが特に悪いと思える数値ではなかった。

その状態でパーツクリーナーを吸わせてみたが、やはり吹き上がらなかった。

これで吹き上がれば燃料不足といえるのだが、吹き上がらなかったので燃料不足による不具合の可能性はなくなった。

ただ、エンジンが吹き上がらないと言っても、実際に不具合現象を確認すると、燃料不足が原因とは思えない症状だった。

どういった症状かというと、アイドリングは全く問題ないのだが、回転を上げていくと1000回転くらいから不規則に失火が発生し、2000回転ではそれが更にひどくなり、それ以上は吹き上がらないのである。

とても燃料不足による吹き上がり不良とは思えなかった。

この症状はレーシングでも発生するので、調子悪い状態でインジェクタのコネクタを順番に抜いていったが、特定のシリンダが失火しているわけではなかった。

インジェクタの作動音を聞くと、不規則に作動しているように感じた。

燃料不足でもなく特定のシリンダの失火でもない。おまけに突然の失火となると、クランク角センサーの信号に異常があることが予想される。

オシロスコープで波形を調べると、吹き上がりが悪い時でもクランク角センサーの信号は出ていたが、よく観察すると、アイドリング時とエンジンが吹き上がらない時の波形に違いがあることに気がついた。

図1は正常時の波形で幅が短い信号が2個と長い信号2個が交互に出ており、図2の不調時は、短い信号が1個抜けていることがあった。

そして、その後のインジェクタの噴射信号は間引かれていた。

点火指示信号と並べて点検すると、クランク角センサーの信号がおかしい時は、本来と違うタイミングで点火指示信号が発生していることが分かった。これが、不規則な失火の原因のようだった。

アイドリング時は正常で、回転を上げると信号が抜ける理由は不明だが、クランク角センサーが悪いのは間違いないので交換した。

話を聞いた限りでは燃料系のトラブルと思っていたが、まさかこんなことが原因とは思わなかった。

その後、同様のトラブルが入庫し、アイドリングでは正常だが、少し回転を上げると、突然ミスが始まりエンストするなどの事例もあった。

クランク角センサー不良の一般的なトラブルは、不具合が出ればエンストや始動不能がしばらく続くというものだが、このトラブルの特徴は、アイドリング時などの低回転では正常なのだが、少し回転を上げると不規則な激しい失火が起こることである。

《技術相談窓口》


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