実践!整備事例一覧 > 整備事例  

Page 1
2021年2月
配線の点検時に疑うべき場所

アイドリングが高くなり、エンジン回転が下がらなくなることがあるという、平成10年式アルトワークス(車両型式E-HA21S、エンジン型式K6Aターボ)のトラブル事例を紹介する。

アイドリングが高い時のエンジン回転数は約2000〜2500rpm程で、バッテリを外すとしばらくは良いが、数??走行すると再発するという。

ISCVを新品に、ECUを中古に交換してみたが、改善されないらしい。

また、不具合時にISCVのバイパス通路を塞ぐと、エンストしそうになるほどエンジン回転は低下するとのこと。

以上のことから、スロットルボデーを通らないエア吸いは考えられず、何らかの原因でISCVが開いたままになっていることが推測される。

以前のスズキの車でISCVのコイルがショートし、その影響でECUが壊され、アイドリングの制御ができなくなるというトラブル事例が続くことがあった。

相談者は中古のECUも壊れている可能性を考え、現在問題の出ていないECUを用意し取り替えてもみたが、症状は改善されなかったそうだ。

そうなると、何らかの原因でECUがアイドルアップの指令を出しているのか、ISCVがECUの意に反して、バイパス通路を開いたままにしているかのどちらかとなる。

本誌2019年9月号の実践!整備事例でもとりあげたが、比較的新しい車であれば、データモニタを行うことでECUはISCVに対して、エンジン回転を上げようと指令を出しているのか、または下げようと指令を出しているのかが判断できる。

例えば、ISCVに対して開度を小さくする指令を出しているにもかかわらず、エンジンの回転が高い場合は、ISCV不良やエア吸い(Dジェトロに限る)等。

一方、ISCVに対して開度を大きくする指令を出している場合には、エンジン回転を上げないといけない理由(エンジンが負荷に負けないように吸入空気量を増やす理由)が生じていると考えられる。

例を挙げると、エンジンコンピュータがエアコンコンプレッサ駆動信号を受け取っている等。

今回の車には残念ながら外部診断機を接続するOBDカプラは搭載されていなかったので、データモニタを行うことができなかった。

そこで、オシロスコープでECUの入力信号を測定してみたが、ISCVの開度を大きくさせなければならないような信号は入っていなかった。

各部を点検している途中でエンジン回転が正常に戻ってしまったが、これまでの点検結果から、ISCVの配線に問題があるとしか考えられない。

不具合はその後、発生しなくなってしまったため、ISCV周辺の配線を点検することにした。

配線のトラブルは、配線が折れ曲がっているところや、配線クランプ部分付近、また、配線に余裕がなく、常に引っ張られているような場所で多く発生しているように感じる。

このため、配線のトラブルを疑う場合には、先述の部分を重点的に点検するのも一つの手だ。

そこで、今回もISCVの配線を追い、特に先に述べた部分を重点的に点検していったところ、ISCVの信号線が断線しかかっている部分を発見した。(写真参照)

そこはクランプでステーに固定されている場所の近くで、車の振動などにより徐々に配線にダメージが及んだものと考えられる。

配線をハンダでしっかりと接続したところ、不具合は完治した。

ところで、整備作業の途中で配線が束になったワイヤハーネスを動かしたりする際に、配線のクランプを外すことがある。

クランプがうまく外れればよいのだが、どうしてもクランプが切れてしまったり、クランプを切断しなければならないケースがある。

問題はその後の処理で、切ったり、切れてしまったクランプをそのままにしない(配線を宙ぶらりんにしない)ことが大切だ。

過去に配線をしっかりと固定していなかったことが理由で配線が断線したり、時々地絡してヒューズが飛ぶという事例を多く経験してきた。(2015年3月号に事例掲載)

正規の配線クランプが手に入らなければ、タイラップなどでも構わない。

しっかり固定するというたったひと手間が、将来のトラブルを予防することにつながる。

配線を取り扱う際には、是非注意を払ってほしい。

《技術相談窓口》


実践!整備事例一覧 > 整備事例
UP