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2021年6月
作業完了時の確認は怠りなく

エンジン始動不能の平成25年式N-BOX(車両型式DBA-JF1、エンジン型式S07A)のトラブル事例を紹介する。

中古車で購入した車だが、最初はクランキングできないということで調べた結果、ヒューズが切れていたので交換すると、クランキングできるようになったのだが完爆しないとのこと。

火花が飛んでいないということもあり、スパークプラグ、IGコイル、ECUを交換したが変化がないということで依頼された。

症状を確認すると、時々爆発することもあるが、長くクランキングしても完爆することはなかった。

また、爆発するタイミングがおかしくてクランキングが引っかかり吸気側に吹き返すこともあった。

まずはダイアグノーシスを点検したが正常コードだった。

次に火花点検とインジェクタの作動音の点検を行うと、ともにほとんど作動していないことが分かった。

圧縮圧力は依頼者の工場で点検しており、全て15kg/cm2前後あり問題なかった。

始動不能といっても、時々爆発していることもあるので、火花も飛んでインジェクタも作動することがあると思われる。

なぜ、火花が正常に飛ばないかを調べるために、IGコイルにECUからの点火指示信号が来ているかを点検することにした。

その前に、念のためにIGコイルの電源端子とアース端子の電圧を測定すると、電源は約12Vで問題なかったが、アース端子はマイナス2Vだった。サーキットテスタのマイナスプローブはバッテリのマイナス端子に当てている。

エンジン始動後であれば、このようにマイナスになることは考えられるが、キーON状態ではバッテリマイナス端子の電圧が最も低いはず。

エンジンとバッテリ間の電圧を測定したがほぼ0Vだった。

なぜ、マイナスの電圧になるのか理由はわからなかったが、2Vの電圧差が出るのは明らかにおかしい。

IGコイルのアース線がどこでアースされているかをファイネスで調べると、G101端子でシリンダブロック後面にあることが分かった。(図1)

もしかしてと思い、PGM-FI(エンジンECU)のアース端子を調べると、IGコイルと同じG101ということが分かった。(図2)

車をリフトアップして調べると、非常に分かりにくい箇所だが見つけることが出来たので、緩んでいるのではないかと思い手で回してみたが手で回ることはなかった。

しかし、レンチで締め付けてみるとかなり締め付けることが出来た。

G101のアースボルトの締め付け不足であった。

このボルトは、ワイヤーハーネスカバーを固定するボルトを兼用しており、ボルトを取り付けるとカバーに覆われて非常に見にくい状態になる。

よって、仮締めを行った後に本締めをしようと思っていた場合、締め忘れる可能性が高いのではないかと思う。

締め付け後、IGコイルのアース端子はほぼ0Vになった。

この状態でクランキングすると、すぐに始動することができた。

なぜ、IGコイルのアース端子がマイナスだったのかは不明だが、始動不能の原因はアースボルトの締め付け不足だったことは間違いない。

後になって思ったことだが、このG101アースボルトはクランク角センサーやTDCセンサーのアースのボルトにもなっており、両方の信号とも正常とは2Vの違いがあったはず。

そうだとすると、ECUは認識できない波形だった可能性もあり、火花も飛ばせず、インジェクタも作動しなかったのではないかと思う。

ただ、クランキング時の振動や電圧変化により時々信号と認識でき、正常ではないタイミングで爆発することもあったのかもしれない。

エンジンのアースボルトは、締め忘れる事例がかなりあるので、外した場合、最後は必ず確認するようにしていただきたい。

《技術相談窓口》



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