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2022年6月
同じ形のコネクタにはご注意を

エンジンASSY を交換後、ハンチングやエンストが発生するようになったという平成18年式RX-8(車両型式SE3P、エンジン型式13B、走行距離12万km)のトラブル事例を紹介する。

エンジンASSYを交換することになった理由は「マフラーから白煙が多量に出るようになった」とユーザーから依頼があり、点検した結果、エンジン内部不良と判断したからとのこと。

エンジン交換後は白煙が出ることはなく、冷機時はハンチングやエンストの症状は発生しない。

しかし、水温が60℃付近になるとハンチングしだしてエンストする時があるとのこと。

エンジンASSYを交換する前はこの症状は無かったとのことである。

スキャンツールで自己診断を調べると「P0172空燃比リッチ」が残っていた。

一度、完全冷機状態までエンジンを冷やしてからエンジンを始動してスキャンツールでデータモニタを観察してみると、冷機時は不調と言えるような感じは無い。

しかし水温が60℃付近になると、エンジン回転が1,500回転ぐらいまで上がったり下がったりして、エンストするようになった。

再始動は出来るが同じ症状を繰り返す。

現象が発生した時にアクセルを少し踏むと症状はおさまる。

現象発生時のデータモニタを見ると、空燃比学習値がマイナス15%、空燃比補正値がマイナス10〜15%。合計するとマイナス25〜30%となる。

水温が60℃付近になる前のトータルの空燃比補正値はマイナス15%付近だった。

これは自己診断の「P0172空燃比リッチ」と辻褄が合うので、トラブルの原因は空燃比が濃すぎるという推測が出来る。

エンジン交換前は症状が出ていなかったことから、センサー系がエンジン交換作業と同時に悪くなったとは考えにくいが、念のためエアフロセンサ(以下、エアフロ)の特性不良を疑い、他の車両から同じ品番のエアフロに交換してみたがやはり症状は変わらなかった。

空燃比が濃くなるというのは、空気が少ないか、燃料が多いかである。しかし、空気が減ればエアフロの電圧も下がるので空気が減って空燃比が濃くなるというのは考えにくい。

エアフロ以外の原因で燃料が多くなるには空燃比センサの特性不良などがあるが、データモニタを見る限り空燃比が濃くなるような数値は見受けられなかった。

他に考えられるのはインジェクタの閉じ不良、燃圧が高過ぎることなどがあるが、こちらも異常が無かった。

やはりヒントはエンジン交換作業後から発生ということになりそうである。

まずは燃料系を点検するためインテークマニホールドを外してインジェクタを見てみると、このエンジンは1ロータにつき3つのインジェクタが付いていた。

2ロータエンジンなので合計6個のインジェクタが付いている。

整備要領書を見てみると、ノーマル仕様とハイパワー仕様の2種類のエンジン仕様があり、ノーマル仕様はインジェクタが1ロータにつき2個、ハイパワー仕様は3個ついていることが分かった。

整備要領書の中の「ハーネス・コネクタ取付時の留意点」というところに「プライマリ・インジェクタ1と2のコネクタは、フロント・ロータ側とリヤ・ロータ側でコネクタ形状が同じため、誤って接続する恐れがある」(図1)という記載があり、コネクタの接続間違いが起きないようにハーネス側に識別テープがあるとのこと。

現車で識別テープと配線色を確認すると、フロント・プライマリの1と2が、リヤ・プライマリの1と2がそれぞれ逆に接続されていることが分かった。(フロント、リヤともプライマリ2はハイパワー仕様のみに付いているインジェクタ)

インジェクタのコネクタを整備要領書を見ながら正規の位置に取り付けてエンジンを始動すると、水温が60℃付近になっても現象は出ず、空燃比補正値もほぼ0%付近で安定した。

整備要領書にインジェクタの容量の記載が無いので推測にはなるが、プライマリ1よりも2の方が容量が大きいと思われる。

コネクタが入れ替わったことにより、ECMはプライマリ1のインジェクタを動かしているつもりだが、実際には容量の大きいプライマリ2のインジェクタを動かしていることになる。

噴射パルスは同じでも、容量が大きければ噴射量は増えるので空燃比は濃くなってしまう。

しかし、エンジン回転の高い冷機時や走行中は吸入空気量が多いため、暖機が進んだエンジンのアイドリング回転ほど空燃比が濃くなり過ぎずに症状に気付きにくかったのかもしれない。

コネクタの取付けについて整備要領書に記載があるということは、裏を返せばインジェクタのコネクタが本来取り付けるインジェクタ以外にも届いてしまうということである。

部品やコネクタを外す時は覚えていても重整備は日数がかかる上、休日を挟んだりするとどうしても記憶が曖昧になることがある。

特にエンジン交換などの重整備になる時は作業前に一通り、作業の流れや注意点を整備要領書で確認することが大切である。

《技術相談窓口》


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