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平成14年4月
ダイアグに検出されない故障を汎用診断機で究明

 エンジンの吹き上がりが悪かったり、アイドリング中にエンストしたりすることがあるという、'95年式のマーチ(E−K11、エンジン型式CG10)の故障探求事例を紹介する。
 このような症状の場合、直感的に『それはエアフローメータの不良だ』と思い浮かぶ人は、少なからずいるはずである。
 しかし、整備(診断)作業においては、このような先入観が命取りになることがあるので、気をつけなければならない。
 まずはダイアグノーシスで、異常コードが表示されないかどうかを調べてみた。
 その結果、正常コードが表示された。
 大半の場合は、これで電子制御装置は悪くないと判断してしまい、それ以外の装置の点検に多大な時間と労力を費やしてしまうのが一般的である。
 このような場合の診断作業の進め方は、まず不具合の症状から考えて、空燃比が適正でないことが時々起こっていると推測される。
 そうであれば、なにが空燃比を狂わせているのかを調べていかなければならない。
 燃料の圧力が変動していないことを燃圧計で確認できたら、あとはフューエル・インジェクタからの、噴射量を制御する上で重要なセンサ類の点検に移る。
 前述したエアフローメータも、その中のひとつである。
 このようなセンサ類の信号の良否を判断する場合、ダイアグノーシスの異常コード表示の有無だけでおこなうのは、危険である。
 なぜなら、ダイアグノーシスの検出レベルは、通常の使用状態ではあり得ない値にならないと、異常とは判断されないからである。
 水温センサを例にして説明すると、図1のようにセンサの抵抗値がほとんど無限大に近い状態(マイナス40℃相当)か、逆にゼロに近くなった時(140℃相当)にしか異常検出しないようになっているからである。
図1 水温センサ信号電圧の変化とダイアグノーシス検出レベル
 これは日産車に限ったことではなく、どこのメーカーの車でもほとんど同様である。
 したがって、正確な良否の判断方法は、エンジンの運転状態と、各センサからの信号の変化をリアルタイムで観測する必要がある。
 このような場面で便利なのが、平成13年度の整備主任者技術研修で説明した、汎用診断機(HDM−2000)である。
 診断機の「データ・モニター」機能を使うと、複数のセンサの信号を同時に見張ることができるので、このまま不具合の発生に備えておけばよい。
 空燃比に大きく影響を与える、エアフローメータと水温センサの信号に注目していると不具合の発生と同時に、水温センサの検出温度がエンジン暖機状態であるのにもかかわらず、10〜85℃の間で変動していることが判った。
 先に述べたように、水温センサ回路が断線または短絡に近い状態まで、抵抗特性が狂った場合はダイアグノーシスに検出されるが、そこまでいかない抵抗特性のズレに対しては検出されない。しかし空燃比は大きく変化するので、エンジン不調となって現れるのである。
 これで、不具合原因を突き止めることができた。
 あとはセンサそのものなのか、ECUからセンサまでのワイヤハーネスが悪いのかを調べればよい。
 ワイヤハーネスや、センサ部分のカプラを軽く揺すっても信号が変化しないことから、センサ単体の不良と診断される。
 このような診断作業を診断機を使わないでおこなうと、各センサおよびECUの端子配列や、それぞれの取り付け位置が判らないとできないし、信号の値がどれぐらいかを知っておく必要がある。
 特にセンサ側の端子で信号を測定する場合カプラ部分の接触抵抗が原因であった時にはサーキット・テスターのプローブを差し込むことで不具合が直ってしまい、なにが原因だったのかが判らなくなる可能性がある。
 その点、汎用診断機は専用の測定カプラに接続して全ての回路を測定するので、そのようなことが防げるのである。
 車のいろいろな部分が電子制御されるようになった昨今にあっては、このような診断機(スキャンツール)無しでは、点検が困難になってきている。
 今後ますます普及してくるハイブリッドカーや、燃料電池を用いた電気自動車(FCEV)になれば、その状況は推して知るべしである。《技術相談窓口》
図2 汎用診断機のデータ・モニター画面をプリントアウトしたもの



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