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平成15年7月
システムを知らないことによる勘違い

 タイミングベルトとエンジンオイルを交換したら、油圧警告灯が消えなくなったという平成5年式ラルゴ(車両型式VW30、エンジン型式CD20)のトラブル事例を紹介する。
 今回のトラブルが作業後なのかと尋ねると「依頼者は、プロの運転手であり、作業依頼時に何も言ってなかった。また、メカニックが、車を移動させるときにも気がつかなかった。」ということである。
 油圧警告灯は、ご存知のようにエンジンオイルが減ったり、油圧装置に異常があり、油圧不足になると点灯し、運転者に警告をするものである。
 点灯の仕組みは、油圧不足になるとオイルプレッシャースイッチがONし、メータからの配線をアースに落とすわけである。(図1)
 もし、実際に油圧不足により警告灯が点灯した場合、このスイッチのコネクタを外せば消灯するはずである。
 依頼者に確認してもらうと、コネクタを外しても消えないという。外したコネクタの電圧はというと、ほぼ0Vだという。ランプが点灯し0Vということは、ランプ以降からスイッチまでの間で、配線がアースに落ちているということになる。ただ、タイミングベルト交換の作業で、配線をショートさせるようなところはないという。
 もしかすると、オイルプレッシャースイッチとは別に、油温センサや油量センサが付いているのかもしれないと思い、調べてもらったが、それらしいものはないという。ただ、調べている時に気が付いたということだが、サイドブレーキを戻してもブレーキの警告灯も点灯したままだという。
 今回の作業後に、両方のシステムが同時に悪くなったとは考えにくい。なんらかのシステムが付いているのではないかと思い、回路図を取り寄せることにした。
 すると、油圧警告灯とブレーキ警告灯はエンジンルームファンコントロールユニットにつながっていることがわかった。(図2)
 これについて調べると、ラルゴ(W30)ではジーゼル車だけに採用しているシステムで、エンジンルーム内の温度を検出し、エンジンルーム内がある温度以上になると専用のファンを回して冷やすようになっていた。
 そして、このシステム異常時(エンジンルーム温度センサまたはファンモータの回路が断線した場合)に、油圧警告灯とブレーキ警告灯を同時に点灯するようになっている。
 依頼者にこのことを連絡すると、エンジンルーム温度センサと思えるものは助手席の下にあり、エンジンルームを点検するためには、助手席を上げないといけないのだが、その時にこのコネクタを外さなければならないという。今は助手席を上げているので、コネクタは外したままになっているということである。
 コネクタを接続し、助手席を降ろすと、2つの警告灯は消灯したということである。
 トラブルというよりは、システムを知らないことによる勘違いだが、何かの作業中に助手席を開けたままだと、今回と同様の現象が起こるわけである。
 こういったシステムは、通常使われていないので知らない人が多いと思うが、車載されている取扱い説明書をみると、ちゃんと記載されていた。取扱い説明書が車載されていない車が多いかもしれないが、こういったものを利用するのも情報を仕入れる一つの手段ではないだろうか。
 ただ、メーカーとしては、取扱い説明書に記載しているし、運転中に2つの警告灯が同時に点灯すれば、なんらかのシステム異常と判断出来安いだろうという考えがあったのかもしれないが、我々メカニックとしては、エンジンの作業時(駐車中)、ブレーキ警告灯は常に点灯しており、今回のような場合、油圧警告灯の点灯ということで、油圧に関するトラブルとして作業をしてしまうのではないだろうか。
 現にその後、エンジンオイル交換をしたら、2つの警告灯が消えなくなったという問い合わせが数件あった。
 コストは掛かるかもしれないが、エンジンルームファン専用の警告灯を付けてもらうと、こういった勘違いは防げたのではないだろうか。
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