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平成15年8月
まちがった作業が引き金になったトラブル

 オートマチック・トランスミッションのシフトアップが遅いという、'92年式のライトエース(Q-CR21G、エンジン型式2C-T、走行距離9万7千km)の不具合事例を紹介する。
 この車のトランスミッションは、「A44DL型」の油圧制御式自動変速機で、変速を決める2つの要素の1つである「車速」は、トランスミッション内部のガバナバルブで検出し、もう1つの「負荷」はアクセルペダルの開度で検出する仕組である。
 アクセルペダル開度は、ディーゼルエンジンの場合、噴射ポンプのコントロール・レバーから、トランスミッション間をケーブルで接続して、その動きをトランスミッション内部でバルブに伝えるようになっている。
 「車速」の変化による圧力を「ガバナ圧」と言い、「負荷」すなわちアクセルペダル開度で変化する圧力は「スロットル圧」と呼ぶのが一般的で、両者は車速と負荷に比例して高くなる。
 変速は、この両方の圧力の大小によって、シフトアップまたはシフトダウンを決定する訳である。(図1)
 したがって、今回の場合はそのどちらかに問題があると考えられる。
 まずはケーブルから点検してみると、通常アクセルペダル全開で現われる、インナーケーブルのマークが、常にアウターケーブルから覗いている。
 これはどう考えても異常である。
 アウターケーブル先端のアジャストナットで目一杯調整しても、引っ張り過ぎの状態である。
 ケーブルを取り付けているブラケットに変形が無い事を確認の上、入念にケーブルに点検したところ、アジャストナットが取り付けられる部分のカシメが、図2のように抜けてしまっていた。
 この影響で見かけ上のインナケーブルの長さが短くなり、実際のアクセルペダル開度よりも余分に引っ張られた格好となって、スロットル圧がガバナ圧を上廻る領域が多くなるので、シフトアップが遅くなる訳である。
 これで不具合の原因を突きとめる事はできたが、何故アウターケーブルのカシメ部分が抜けたのかの疑問が残る。
 過去の整備歴を尋ねてみると、2年前にエンジンを載せ換えている事が判明した。
 おそらくその時に、前述のケーブルを外さないでエンジンとトランスミッションを切り離したために、アウターケーブルを無理に引っ張った事で、カシメ部分で抜けたものと推測する。
 ケーブルの交換は、トランスミッションのオイルパンを外したのち、コントロール・バルブをトランスミッション本体から分離して、ケーブル・ドラムからケーブルを取り外さなければならず、オイルは落ちて来るし、手は滑るわで、大変な作業である。
 システムの構造や機能をしっかり理解した上で作業をおこなわないと、悪くもない物を壊してしまうので、慎重な作業が望まれる。
《技術相談窓口》




[参考]ケーブルの調整マーク点検要領

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