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2006年1月
オーバーヒートがエンジンに与える影響
 シリンダヘッドを研磨してから始動性が悪くなったアルトワークス(車両型式HA21S,エンジン型式K6A、走行7万8千km)のトラブル事例を紹介する。
 そもそもオーバーヒートを起こしたということで入庫。調べてみるとシリンダヘッドがかなり歪んでいたらしいが、ユーザー(元整備士)の希望で研磨をして、シリンダヘッドガスケットだけを交換したということである。
 それから始動性が悪くなったということだが、どのくらい歪んでいたかと聞くと、歪みははっきりしないが0.4mmほど削ってもらったという驚きの返事が返ってきた。
 一般的にシリンダヘッドの歪み限度は0.05mm程度である。それを0.4mm研磨したということは、それに近い歪みがあったはずである。
 調べてみるとこのエンジンの歪み限度は0.03mmであった。
 研磨をする工場は、自動車整備を専門にしているわけではなく、0.4mm近い歪みがあっても要望があれば研磨はしてくれるが、それでシリンダヘッド本来の役割が果たせるかどうかは知らないはずである。
 その歪みが始動性に影響を与えるかどうかは不明だが、メーカーの基準値を大幅に超えたものを使用して良いはずがない。
 とりあえず始動性が悪いことについてだけは点検してみることにした。
 話では、エンジンの調子はそんなに悪くないということだったが、実際にエンジンをかけてみると、確かにかかりにくかったが、それよりもエンジンが振れており明らかに1気筒失火していた。
 パワーバランステストをしてみると、2番シリンダが失火していることが判明した。
 インテークマニホールド負圧を測定すると、−200mmHgもなく、回転数を上げても−230mmHgまでしかならなかった。
 バルブクリアランスの問題でもなさそうだったので、エンジンの3要素を点検すると、火花は飛んでおり、インジェクタの作動音もしていた。
 残りの圧縮圧力を測定すると、1番シリンダが9.9kg/cm2、2番シリンダは5kg/cm2、3番シリンダは8.4kg/cm2だった。2番と3番が悪く、特に2番はひどかった。
 これではエンジンの始動性が悪く、エンジンが振れるのも当然である。
 どこから圧縮圧力が洩れているか、リークテストをしてみようかと思ったが、修理以前は悪くなかったということだし、0.4mm近い歪みがあったシリンダヘッドを使用していること、また、歪みの最も大きくなる2番シリンダの圧縮が一番低いことから、バルブの当たりが悪いということが予想されたのでテストはしなかった。
 シリンダヘッドを交換するよう説明をして車を引き取ってもらった。
 シリンダヘッドが歪んだ場合、研磨をすれば確かにヘッド面の歪みはなくなるが、同時に歪んだバルブシート部の歪みがなくなる訳ではない。
 その歪んだバルブシートではバルブが正しく当たるはずもない。
 また、同じように、カムシャフトの取り付け部も歪んだままであり、そこに曲がりのないカムシャフトを取り付ければ、カムシャフトは曲がった状態で回転することになり、タイミングベルトにも負荷となるのである。
 10万km以下でタイミングべルトが切れることがあるが、その原因の一つには、オーバーヒートによるシリンダヘッドの歪みもあるのではないだろうか。
 よって、シリンダヘッドの歪みが基準値以下であっても、歪みが測定できるようであれば、研磨ではなく交換したほうが、後々のことを考えれば安上がりかもしれないし安心である。
 ましてや今回の車は、基準値を超えているわけであり、いくら元整備士の要望とはいえ、駄目なものは駄目である。
《技術相談窓口》
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