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2006年11月
A/Tを交換する前に点検しなければならない大切な事
 Dレンジで発進した時に、1速からまったく変速しなくなる事があるという、'96年式のパジェロ・ミニ(E-H56A、エンジン型式4A30、走行距離13万km)のトラブル事例を紹介する。
 この車のトランス・ミッションは3速オートマチック・トランスミッションで、D・2・Lレンジのすべてを、2つのシフト・ソレノイド・バルブの通電パターンの組み合わせで変速する、電子制御式A/Tである。
 変速制御をおこなうのに必要な信号は、「車速」と「エンジン負荷」であり、それぞれの状態をセンサーによって検出している。
 電子制御式A/Tのトラブル・シューティングをおこなう上で大切な事は、電気的な原因なのか、機械的な原因なのかを見きわめる事である。
 『トランス・ミッションを交換したけど直らない…』という技術相談を受ける事がよくあるが、機械的な部分が原因である場合はそれで直るが、電気的な部分が原因である場合には、それでは解決に至らないのである。
 「不具合現象が発生している部分に原因がある」というように、短絡的な考えで修理をおこなっても、現在の車は必ずしも好結果は得られないので、理論的に考えて診断を進めなければならない。
 1速から変速しないという現象は、前述した2つのシフト・ソレノイド・バルブの電圧が変化しているかどうかを点検すれば、電気的な故障か機械的な故障かが区別できるので、A/T・ECUのカプラ部でそれぞれのシフト・ソレノイド・バルブへの通電の様子が判るようにして、試運転をしてみた。
 その結果、図1に示すような通電パターンにならなくなる事があり、その時に1速固定になってしまう。
 車速とエンジン負荷の信号が正常である事を確認した上で、次の点検に進んだ。
 シフト・ソレノイド・バルブの回路に異常があった場合、ECUは通電を停止する仕組(フェイル・セーフ・モード)になっているので、ECUのカプラを外して抵抗値を測定してみたところ、シフト・ソレノイド・バルブNo.2の抵抗値が、通常の値を大きく上廻っている事が判明した。
 これによってECUはフェイル・セーフ・モードになり、シフト・ソレノイド・バルブNo.1への通電を停止するため、変速制御を禁止していた訳である。
 今回のように、電気的部分が不具合の原因である場合は、トランスミッションを交換しなくても、オイルパンを取り外して図2に示すコントロール・バルブ・ボディに取り付けられている、シフト・ソレノイド・バルブを交換すれば不具合は解決する。
 他にも電子制御式A/Tの不具合については、車速信号の異常やECU自体の故障等の原因があるため、トランス・ミッションを交換する前に、それらの点検をしっかりおこなう事が大切である。
《技術相談窓口》
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