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2007年4月
脱着作業の不備がエンジントラブルの原因に

タイミングベルトを交換したら、エンジンが不調になったという、'99年式クラウン(GF-JZS155、エンジン型式2JZGE、走行距離9万km)のトラブル事例。

エンジン警告灯が点灯しっ放しになり、ダイアグノーシスコードを点検したところ、「P1300」(イグナイタ1系統異常)を表示したので、イグニッション・コイルとイグナイタを交換したが、直らないので調べてほしいという相談。

不安定なアイドリング状態でパワーバランス・テストをおこなった結果、1番と6番シリンダが失火していることがわかった。

このエンジンは、1個のイグニッション・コイルで2つのシリンダが同時に点火するタイプなので、イグニッション・コイルが機能しなくなると、2気筒に影響がでてしまう。

ダミープラグを取り付けて火花テストをおこなうと、クランキング初期のみスパークするが、その後はまったく反応しない。

イグニッション・コイルとイグナイタは前述したように交換しているので、不具合があるとすればECUか、これらを結ぶ配線のいずれかである。

ECUとイグナイタのカプラを外して、回路の断線と短絡の点検をおこなったが、異常は認められなかった。

念のためにイグナイタの信号端子にダミーの点火指示信号を入力してやると、力強い火花が飛んだ。

ここまでくると、ECUを疑うしかない。

しかしECUを交換するとなると、イモビライザ機能が組み込まれているので、簡単ではない。

もう一度各センサ類の信号を見直してみる事にして、オシロスコープを用いて調べていくと、クランク角センサの信号(Ne信号)がおかしいのに気が付いた。

Ne信号は、燃料噴射や点火時期制御を正確におこなう上で、気筒判別のために基点になる部分を設ける必要があるので、シグナル・プレートの一部に欠歯したところを作っている。(図1)

図1

シグナルプレートおよびクランク角センサの形状と配置

現車の信号と正常な信号を比較したものを図2に示すが、現車の信号には本来の欠歯部以外にも欠歯があると思われる波形が見てとれる。

図2

異常時の信号波形(右)と正常時の信号波形(左)

異常時は、本来の信号位置の直前で余計な信号を検知している

タイミングベルトを交換したメカニックに詳細な作業内容をたずねると、クランクシャフトのオイルシールの交換も同時におこなった事が判明した。

これで今回のトラブルの顛末がわかってきた。

オイルシールを交換するために、タイミングベルトを駆動するプーリーと一体成型されたシグナルプレートを取り外す際に、プーラーを用いないでドライバー等でこじった時に歯欠けし、それに気付かないまま組み付けたために、エンジン不調を起こしたのだ。(図3)

図3

 

クランクシャフトに取り付けられているプーリー&シグナルローターの全体図(左)

プーリーに2カ所あるねじ穴が何のためにあるのかを知ってか知らずか、いつものクセでドライバー等でこじってしまうから、歯欠けするのである。右は歯欠け部分の拡大

ちょっとのミスが原因で思わぬトラブルが発生する事を肝に銘じて、正しい整備作業に努めなければならない。

自分が掘った落とし穴にはまらないためにも…。

《技術相談窓口》


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