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2007年12月
故障と思う前に…
(システムの把握をしっかりと)
 平成13年式の日産リバティー(PM12、エンジン型式SR20DE)の燃料メーターがおかしいという事例。
  入庫に至る経緯を確認したところ、「燃料が減ってくるとメーター内の燃料残量表示が急にFullまで上がっていき、気持ち悪いので見て欲しい」というユーザーからの訴えで入庫したという。
  フューエルタンクユニット左右を新品に交換してみたが症状は改善されず、他に考えられる原因は無いだろうかということであった。
  今回の症状を聞く限り、燃料が減ってくると燃料残量表示が急にFullまで上がっていくということから、何らかの原因でフューエルゲージ・センダユニット部に不具合が発生しているのかもしれないと推測した。
  フューエルゲージ・センダユニット部は、燃料の液面に対応してフロートが上下することにより検出端子の抵抗が変化し、その抵抗変化により燃料の残量を表示しているシステムである。(図1参照)
  この部分に何らかの不具合が発生すれば、今回のような症状も発生する可能性があるのではないかと思い、他に手がかりは得られないものかとあれこれ聞いてみたが、それ以外の不具合は全くないという。
  今回の症状が発生するのは、「燃料が少なくなったときのみで、他のタイミングでは症状がでない」、「燃料残量表示が急にFullまで上がっていく」この2点を考えていたところ、ハッと閃いた。
  「ひょっとして、その車はデジタルメーターですか?」と尋ねたところ、「そうだ」という。
  これは異常でも何でもなく、正常なのである。
  今回の車両は、燃料の残量がある一定量以下になると拡大表示されるシステムとなっていた。
  燃料が20ℓ以下になると、より詳細な燃料の残量をドライバーが把握できるようにという配慮から、20ℓを満タンとした状態でセグメント表示がされる。(図2参照)
  したがって、今回の「燃料が減ってくるとメーター内の燃料残量表示が急にFullまで上がっていく」というユーザーの訴えは、燃料の残量が20ℓを切ったので、20ℓ満タンとする拡大表示に切り替わっただけだったのである。
  「今回の症状は故障ではありませんので、この車のシステムをユーザーに説明してあげてください」と伝え、技術相談を終えた。
  次の事例は、ホンダライフ(型式:JB1以降の全ての車両)で、PまたはNレンジでレーシングをすると、4000min−1 くらいで頭打ちになるという。
  どうもフューエルカットが働いているようで、何が原因だろうか?との問い合わせだった。
  実はこの現象も、エンジンをかけた状態で車の中で仮眠をとるような場合に、無意識のうちにアクセルを踏み込んでエンジンの過熱による車両火災がおきることのないように配慮された機構であり、異常ではなく正常な作動なのである。
  最後にもう一つ。
  電動パワーステアリング装着車両に見られる現象で、車両停止状態でステアリングホイールを動かしたり、エンジン回転を上げたりしていると、EPS警告灯が点灯するというもの。
  これももちろん異常ではなく、前者は電動パワーステアリングのモーターの過大負荷によるフェイルセーフで警告灯を点灯させ、パワーアシストを制限していることをドライバーに知らせている状態である。
  復帰条件として、モーターの消費電力量が減少、またはイグニッションスイッチOFF状態から徐々に始まり、最大14分後に通常の制御値に戻る。
  また、後者は電動パワーステアリング制御システムにおける、車速とエンジン回転の比較診断で、車速0km/hにもかかわらずにエンジン回転が高いために警告灯を点灯させ、ドライバーに注意を促すものである。(ライフの制御システムより)
  この場合、イグニッションスイッチOFFで警告モードが解除される。
  最近の車は多機能化しており、ユーザーはもちろん、整備士も機能を把握しておかなければ正常な機能を故障と判断してしまう恐れがある。
  もちろん、1人の整備士が全ての自動車のシステムを理解するのは不可能ではあるのだが、メーカーを問わずに共通するシステムを使用している例は少なくない。
  今回の3例も各メーカーで共通する部分があり、そのあたりだけでも頭の中に入れておくと今後の整備がよりスムーズに運ぶのではないだろうか。
  自動車が日々進化していく中、整備士もそれに対応する進化をしていかなければならないと実感する事例であった。
《技術相談窓口》
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