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2010年11月
ベルトの振動とスリップ音の発生要因

アイドル回転時に、補機駆動用のベルトが激しく振動して、加速時にベルトが鳴くという’01年式のプリメーラ(TA-TP12、エンジン型式QR20、走行距離6万km)のトラブル事例を紹介する。

この車のベルトは、1本ですべての補機類を駆動する「サーペンタイン」タイプのベルト機構が採用されている。

このタイプの特徴は、駆動するクランク・プーリーが1段で事足りるので、エンジンの全長を短くすることができるため、近年はどのメーカーもこの方式を採っている。

ベルトの張り具合は、オート・テンショナーがスプリングによって所定の張力を与えるようになっているので、定期的な張り調整は原則不要である。

このようなシステムでベルトが振れたりスリップ音が出るというのは、本来あり得ないのであるが、起こっている事は事実なので受け入れなければならない。

すでにベルトは新品に交換されており、これ以上することがないので調べてほしいとの依頼である。

エンジン停止時のベルトの張り具合に問題はなく、オイルなどの付着もない状況である。

ベルトの振動は、図1に示すA の部分がもっとも激しいので、オルタネーターのカプラを外してみると、振動が消えた。

この事から、オルタネーターの負荷によって振動が発生している事が判明した。

実はこのオルタネーターのプーリーにはある仕掛けがあって、通常のプーリーとは異なっているのである。

図2のように、内部にワンウェイ・クラッチを内蔵しており、エンジンとオルタネーターの回転変動によるベルトへの張力変化を抑えるようになっている。

出力が100アンペアを超える昨今のオルタネーターは、それ自身の慣性モーメントが大きく、回転変動があるエンジンで駆動したときにプーリーやベルトの駆動系にトルク変動が生じ、その影響でベルトに大きな張力変動が掛かってベルトの寿命を縮めてしまう。

そこで、プーリーにワンウェイ・クラッチを設けることで、トルク変動にともなう回転変動を吸収し、ベルトに作用する張力変動を低減することで、長寿命化をねらっている。

そのことをもう少し詳しく説明するために、図3を見ながら考えていただきたい。

アクセル・ペダルを戻してエンジン回転が低下した際、その直前の回転速度で回されていたオルタネーターのローターシャフトは、慣性モーメントの影響でその回転速度を保とうとする。

その時両者の速度の関係はV1<V3になるため、ワンウェイ・クラッチが作用して、ベルトのB 側にたるみが生じないように働くため、再加速して速度の関係が前述とは逆になったときの、ベルトのスリップ音を防止することができるのである。

取り外したオルタネーターのプーリーを点検したところ、ワンウェイ・クラッチがロックしており、本来の機能を失っていた。

このプーリーを交換するには専用のSSTが必要で、図4に示す33角のスプライン形状のビットをプーリーに差し込んで回さなければならない。

プーリー交換後は、静かで落ち着いたアイドリングになった。

他のメーカーのオルタネーターにも同様の物が装着されているので、トラブルシュートを行う場合は注意をしていただきたい。

※ ワンウェイ・クラッチが無い場合、エンジンが急減速した時は慣性モーメントで回り続けようとするオルタネーターからのトルクで、ベルトA 側の張りが強くなり反対側のB ではたるみが生じる(V1<V2)。

この時にエンジン回転が急上昇するとV1>V2の状態になり、たるんだB 側を引っ張るためにスリップ音が発生する。

プーリーにワンウェイ・クラッチを設ける事で、プーリーからローターシャフトを回す方向(V2≧V3)には駆動するが、ローターシャフトからプーリーを回す方向(V2<V3)になった場合は空転するため、ベルトB 側にたるみが生じないので、スリップを防止できる。


※ プーリーの内輪に直接ねじを切っているので、オルタネーターを分解してローターをバイスで固定する必要がある。

オルタネーターを分解せずにインパクトレンチを用いるのは、トルク管理ができないので絶対にしない事。


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