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2011年12月
診断機なしで整備できる範囲を知るべき

ブレーキ・フルードの交換作業をしたところ、ABSの警告灯が点灯してしまい、DTCを消去してもすぐに警告灯が再点灯してしまうという、平成18年式プリウス(車両型式DAA−NHW20、エンジン型式1NZ−3CM)のトラブル事例を紹介する。

話を聞いてみると、若いメカニックに「この車のブレーキ・フルード交換はしなくて良い」と伝えていたのだが、誤って交換作業を実施してしまい、リヤ・ブレーキのフルード交換作業を実施していたところ、現在の症状に至ったとのこと。

ご存じのとおり、プリウスには電子制御プレーキシステム(ECB2:エレクトロニカリー・コントロールド・ブレーキシステム・2)が搭載されており、通常時はブレーキ・ペダルを踏むと、ブレーキ・アクチュエータ内のポンプ・モータにより発生された油圧を利用し、ブレーキを作動させるという仕組みのため、従来の自動車のように、ブレーキ・ペダルを踏む踏力によって発生する油圧を利用しているわけではない。(図参照)

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どのホイール・シリンダに油圧を作用させるかは、ブレーキ・アクチュエータ内のリニア・ソレノイド・バルブによって制御されている。

加えて、蓄圧されたブレーキ・フルードの圧力や各ホイール・シリンダに作用するブレーキ・フルードの圧力は全てコンピュータがモニタしている。

このため、ホイール・シリンダのブリーダ・プラグを緩めた状態でブレーキを踏み込むと、「ブレーキを踏んでいるのにブレーキ・フルードの圧力が上昇しない」ということで、コンピュータが「システム異常」と判断し、フェイル・セーフ・モードに入ってしまう。

その結果、いくらブレーキ.ペダルを踏み込もうが、リヤのホイール・シリンダに油圧はかからないということになる。(フェイル・セーフ用に、フロント・ブレーキには、ブレーキ・ペダルを踏み込む踏力により発生した油圧が直接作用するようになっている)

リヤ・ブレーキのフルード交換要領については省略する(平成17年度整備主任者技術研修資料[学科研修用]を参照)が、適切な手順に従って作業を行わなかった場合は、ABS 警告灯が点灯し、リヤ・ブレーキが作動しなくなる。

この場合の対処方法は、まずABSのDTCを消去し、その後「リニアオフセット弁学習」を実施すればよい。

ところが、ABSのDTC消去については診断機がなくても行うことができるのだが、「リニアオフセット弁学習」については診断機がないと実施できないようになっている。

結果、当会にてABSのDTCを消去し、「リニアオフセット弁学習」を実施したところ、ABS警告灯は消灯し、再点灯することはなくなった。

数年前までは診断機がなくても何とかなることが多かったが、このようなシステムを搭載したプリウスの普及が著しい現在、いよいよ診断機がなければどうにもならないという時代になりつつある。

「診断機を購入しても購入代金の元が取れないから購入しない」という考えを改める時期が来ているのではないだろうか。


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