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2016年3月
ISCV 不良を診断する場合

アイドリングが全く効かなくなったり、エンジン回転が上がったまま下がらなくなることがあるという、平成16年式ライフ(車両型式UA-JB5、エンジン型式P07A)のトラブル事例を紹介する。

依頼者はISCVの不良を疑い、真っ先に点検したらしい。ところが、修理書に記載されている点検を行うも、特段悪いところがなく判断に困っているとのこと。

まずは現車の不具合状況を確認した。

確かにアイドリングが保てずに、始動直後にエンストしてしまう。

次にアクセルペダルを少し踏んだままエンジンを始動したところ、アクセルを踏んでいる間はエンストせずにエンジンは回転してくれるが、アクセルペダルを離すとエンストしてしまった。

再度エンジンを始動し、アクセルペダル操作で正規のアイドル回転になるように調節してみたところ、エンジンの調子には全く問題がなく、アイドリングすることが確認できた。

この点検で、点火系や燃料系、エンジン本体の不具合でアイドリングが保てないわけではないことが確認できる。

仮にこれらに原因があった場合は、正規のアイドル回転にしようとしても、エンジンが振れたり調子が悪かったりするからである。

以上のことから、単純にアイドル回転制御のみの不具合であると判断した。

現車のISCVは4本線タイプのステップモータ式ISCVであった。

ステップモータ式のISCVは抵抗を測定することで、電気的な回路の不良が発生していないかを点検することができる。

修理書の基準値を参考に抵抗を測定してみたが、2つのコイルは共に約50Ωと問題なかった。

(6本線タイプのステップモータ式ISCVは4つのコイルを点検する必要がある)

念のため、ECU〜ISCV間の配線の導通を確認したが、4本全て問題なかった。

以上の点検結果から、ISCVの電気的な故障ではなく、機械的な故障(固着して動かなくなる等)となるのだが、実はもう一つ点検しなければならない項目がある。

それはECUが、ISCVに対して指示を出しているかどうかである。

まずは、データモニタを行いながら、アクセルペダル操作でアイドル回転数を保つ。

その状態でエアコンコンプレッサをONさせる等の電気負荷を与えたときに、ISCV開度の数値が変化するかどうかだ。

通常はECUがアイドル回転を上げる際には、データモニタ上のISCV開度の数値が大きくなる。

電気負荷を与えた際にその変化が見られれば、ECUが状況に応じて制御を行おうとしていることになる。

仮に、ISCVが開いたまま固着し、エンジン回転が高いまま下がらなくなったトラブルであれば、ECUはアイドル回転を下げるために、ISCV開度を下げようとするはずである。

そのことをデータモニタで確認した上で、ISCV用バイパス通路を指で塞ぐ。

このときにエンスト、もしくはかなり低い回転になるかを確認すればよい。

エンジン回転が下がるようであれば、ISCVの機械的な不良となる。

もちろん、データモニタ上でISCV開度の数値が変化しているからといって100%ECUは正常と判断はできないが、制御していなければECUの不良もしくは、それらの制御に関連する各種信号の不良という判断ができる。

今回はエアコンコンプレッサをONさせた際に、ISCV開度の数値が上昇したため、ECUは制御を行おうとしているという判断ができた。(実際にはISCVが壊れていたので、アイドル回転の上昇はなかった)

ECUはひとまず大丈夫であろうとの判断でISCVのみ交換し、結果、不具合は改善された。(注参照)

ISCV不良を疑い修理書に記載されている点検を行ったが問題なかったので、本当にISCVが悪いのだろうかという相談は意外と多い。

特にISCVのトラブルには今回のような機械的なトラブルも多いため、診断をする際には外部診断機を活用し、いかに絞り込みを行えるかが鍵になる。

注意:6本線タイプのステップモータ式ISCVがショートする壊れ方をすると、ECUまで壊れる場合があります。この場合(ECUが壊れた場合)、データモニタ上では、ECUは電気負荷に応じてISCV開度を変化させにいきますが、ECUの内部回路の不良により、ISCVが正常だとしても、アイドリングの制御ができません。つまり、ECU不良となります。

このように、データモニタ上の数値の変化をもって、ECUは絶対に大丈夫との判断はできません。

様々な状況を総合して判断しなければならないため、あくまでも判断材料の1つという程度の情報として扱う必要があります。

《技術相談窓口》


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