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2018年9月
バルブタイミングの点検方法

エンジンがかからないという平成12年式キャリー(DB52T、F6A)の整備事例を紹介する。

不具合現象を確認すると、クランキングはでき、時々爆発することもあるがエンジンはかかる気配がない。依頼者の工場でも点検しているが、見落としの可能性もあるので、こちらでも基本的な所から点検をやり直すことにした。

まずは、ダイアグノーシスを点検したが正常コードであった。

次に、基本点検である火花点検、インジェクタの作動音の点検、燃圧点検、圧縮圧力などを行ったが問題なかった。これら以外で原因となるのは、バルブクリアランス、バルブタイミングの狂い、燃料自体の不良、排気系の詰り、ECUの不良等である。

ただし、プラグ、エンジンECU、クランク角センサは交換しており、エンジンECUは除外してもよさそうである。

燃料に関しては、最近入れたかどうかを確認してもらったが入れてないということで、燃料の種類の入れ間違いや、劣化燃料の可能性は低い。

念のため、インジェクタのコネクタを全て外し、パーツクリーナを軽く吹き込みながらクランキングしてみることにした。パーツクリーナはLPガスを使用しているため、ガソリンの代わりになる。

よって、燃料系以外が正常であればエンジンはかかるはずである。試してみたが、症状に変化はなかった。つまり、燃料以外に原因があるという事である。

残るはバルブクリアランス、バルブタイミングの狂い、排気系の詰りだが、クランキング時の回り方が、どうもタイミングが合っていない時の回り方である。ということで、バルブタイミングを点検することにした。

クランクプーリの点火時期マークで1番シリンダを圧縮上死点にし、カムシャフト側の合マークを見たが合っていた。

しかし、カムシャフトのカム山の向きをよく見ると、どう見ても1番の圧縮上死点とはちょっと違うような気がした。ただ、はっきりとわからないのでクランクシャフトを1回転させて、1番シリンダをオーバーラップにしてみた。カム山の向きを確認するにはオーバーラップの方がわかりやすいからである。

すると、本来、オーバーラップの時には、排気終わりの吸気始めとなるはずが、まだまだ排気は終わらないし、吸入は全く始まっていなかった。明らかに遅れているのである。カムシャフトプーリのマークが合っているのに、実際のカム山の向きが合っていないことになる。

これはどういうことか?考えられるのは、カムシャフトとプーリのずれである。

その原因を探るためにカムシャフトプーリを外すと、思いもよらない状態になっていた。プーリとシャフトの位置決めのピンが折損していたのである。このピンが折れるなんて考えられない。

たしかに、中空形状で強度はなさそうだが、それでもこのピンが折れるとなると、かなりの力がかかったはずである。

可能性としては、カムシャフトが焼付き気味ではないかと思い、カムシャフトベアリングキャップを外してみた。すると、ベアリングキャップ内側がかなり荒れていた。オイルメンテ不良により焼き付き気味になっていたようである。

依頼者にこのことを伝えると、バルブタイミングは点検したがカム山の向きまでは確認しておらず、マークが合っていたので問題ないと思ったということである。

このようにバルブタイミングの点検は、マークだけの確認だけでは不十分である。

過去には、クランクシャフトプーリのキー溝が摩耗していて、タイミングがずれていた事例もあった。こちらもマークだけの点検では不十分である。

では、クランク側はどうするのかというと、プラグを外しプラグホールに長めのドライバーの先を差し込む。そして、クランクシャフトをゆっくり回す。

すると、ドライバーはピストンの動きと同期して上下する。そして、ドライバーの動きが頂点に達した時、クランクプーリのマークがTOP位置にあれば問題ないということである。ずれていれば、プーリ側に問題があるということになる。

このように、バルブタイミングの狂いが疑われる場合、合マークだけではなくピストン位置やカム山の向きまで確認しなければ、本当にバルブタイミングが正しいとは言えないのである。

《技術相談窓口》


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