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2019年2月
冷機時のみ始動性不良

冷機時の始動性が悪いという平成9年式ワゴンR(車両型式E-CT51S、エンジン型式K6A)のトラブル事例を紹介する。

ただ、冷機時といっても完全に冷えた状態でなくても症状は出るようである。また、暖機後はほとんど問題ないという。

異常コードはないだろうと思ったが、まずはダイアグノーシスを点検。

予想通り正常コードを表示。

冷機時のみの症状ということもあり、水温センサが1番怪しいと思われた。

症状が発生した時のことを考えて水温センサに電圧計をセットしておいた。

翌日、キースイッチをONにして水温センサの電圧を調べると約2Vと特に問題のある数値ではなかった。

症状が出ないのかもしれないと思いクランキングすると、まったくかかる気配がない。

火花を点検したが全てのシリンダで飛んでいた。

また、燃料ポンプとインジェクタの作動音もあった。

インジェクタの詰りが無ければ少なからず燃料は出ているはず。

これで始動不能という事は、燃料が足りないという事になる。

クランキング時にスプレー式の可燃性ガスを吸入させてみると一発で始動できた。やはり燃料が足りないようである。

燃料不足となると、燃料ポンプとバキュームセンサが怪しいが、冷機時だけ悪くなることは考えにくい。

ただ、可能性はあるので燃圧とバキュームセンサの電圧が測定できるように、それぞれテスタをセットした。

キースイッチをONにすると、バキュームセンサは約4Vと問題ないが燃圧は1.6kg/cm2と明らかに低い。

基準値を調べると3±0.05kg/cm2になっていた。(図1参照)

しかし、そのままクランキングすると、エンジンがかかってしまった。

先ほど可燃性ガスを吸わせながら始動させたので、症状が出なくなったのかもしれないと思ったが、燃圧計を見るとどうもおかしい。

キースイッチON時の圧力とまったく変わっていないのである。

レーシングしても変化しないし、プレッシャーレギュレータのバキュームホースを抜いても変化しない。

通常、燃圧はキースイッチON時は約3kg/cm2で、アイドルではそれより0.5kg/cm2低いのが一般的である。

それが、常に1.6kg/cm2ということはポンプ自体の吐出能力が低いとしか思えない。

ただし、プレッシャーレギュレータ不良の可能性もあるので、フューエルリターンホースを専用プライヤーでカットしてみた。

こうすれば燃料ポンプの最大吐出圧になるはずである。

しかし、それでも1.6kg/cm2という値は変わらなかった。

どうも燃料ポンプの不良であるが、現象を確認する必要がある。

エンジンを冷やすために、3時間ほどそのままにしておきクランキングしてみた。

すると、今度は燃圧が1.0kg/cm2しかなく始動できなかった。

しばらくクランキングを続けると徐々に燃圧は上がってきて、1.4kg/cm2を超えたあたりから初爆があり、なんとか始動できた。

間違いなく燃圧不足による始動不能である。

念のため、燃料ポンプへの通電電圧を確認したが問題なかった。

依頼者にこのことを伝えると、「まさか冷機時だけに燃圧が低いなんて思いもしなかったので燃圧は測定しなかった。」とのことだった。

たしかに、燃料ポンプの不良はあまり温度に関係ないことが多いが、可能性がある以上は点検は必要である。

《技術相談窓口》


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