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2019年4月
ヒューマンエラーでMILが点灯

冷機始動直後に、MIL(エンジン警告灯)が点灯するという、平成22年式の日産マーチ(DBA-AK12、エンジン型式CR12、走行距離14万km)のトラブル事例を紹介する。

スキャンツールで調べたところ、「P0335」(クランク角センサ信号系異常)のDTCを検出していたので、迷うことなくセンサを交換したが、状況は変わらないとのことで車が搬入された。

始動不良やエンストが発生する訳でもなく、暖機したのちにエンジンを始動した場合は、MILが点灯することはない。

この車に搭載されているエンジンはタイミング・チェーンが伸びやすく、それによってカム角センサとの信号の位相ずれが大きくなって、前述のDTCを検出することを、過去にこの欄で紹介している。

両者の信号を波形観測してみると、あきらかに位相差が大きくなっており、アイドル回転時のVTC角度がマイナス5°を示している。

エンジンのトップカバーを外して目視点検してみると、テンショナが大きく張り出していた。

このことから、まちがいなくタイミング・チェーンの伸びが確認できた。

依頼元の工場にそのことを伝えて、タイミング・チェーン関連の部品を交換するように説明して、車を返却した。

それで片付いたと思っていた矢先に電話が入って、再びMILが点灯したとのことである。

調べた結果、これまで同様「P0335」が検出されていた。

念のためにVTC角度を調べると、ほぼ0°に収まっていることから、タイミング・チェーンの方は改善されていることがわかる。

それでもなおクランク角センサ信号系の異常が検出されるのは、なぜだろうか。

センサからECM間の配線や、端子のかん合状態まで調べたが、問題はみつからない。

この時点で、もう一度詳しくこれまでの経緯を確認してみた。

そもそもは、オーバーヒートでエンジンが焼き付いて入庫し、中古のエンジンと交換したとのことで、その作業を終えて納車してから、今回の不具合現象が発生したらしい。

現車を確認すると、クランク角センサはトランス・ミッションのコンバータ・ハウジングに取り付けられており、それに対向するシグナル・プレートはエンジンのドライブ・プレートに併設される構造である。

トランス・ミッションは従前の物を使用したとのことなので、エンジンと切り離したり結合する際に問題が起きているのではないかと推測される。

クランク角センサを取り外して、その穴からシグナル・プレートを覗き込みながら、クランクシャフトをゆっくり回してみると、一カ所だけシグナル・プレートが変形していることが確認できた。

これによって、冷機時にオシロスコープの波形観測で捉えきれない程度の信号の乱れで、「P0335」が検出されたのであろう。

変形は、おそらく中古のエンジンを移送したり載せ替えたりする際に、地面と干渉して曲がったものと推測する。

もう一度車を持ち帰ってもらって、ドライブ・プレートを交換するようにお願いした。

後日、図に示す変形したドライブ・プレートが届き、部品交換後に数日間の試運転で問題がないことを確認したうえで、ユーザーに手渡したとの連絡があった。

機械的な部分の構造・機能を熟知したうえで作業を行わないと、今回のような不可解な故障原因の探求に、無駄な時間を費やしてしまう。

《技術相談窓口》


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