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2023年12月
IGコイルのコネクタを抜くとエンスト

エンジン不調の平成14年式アルテッツァ(車両型式GH-SXE10、エンジン型式3S-FE)のトラブル事例を紹介する。

依頼者の工場では、1気筒失火しているようなので、パワーバランステストを行うために、1番シリンダのIGコイルのコネクタを抜くとエンストしたという。

他のシリンダのコイルのコネクタを抜いても同じ現象が出て、どのシリンダの失火なのかがわからないということで依頼された。

実際に、同じように1番シリンダのIGコイルのコネクタを抜くと、1秒後くらいにエンストした。繰り返し試してみたが、結果はすべて同じ。

これはトヨタ車特有のフェイルセーフ機能による現象であって、当然のことである。

フェイルセーフ機能とは、各入出力信号系統に異常が発生したとき、その異常な信号をもとに制御を続けるとエンジン不調や、触媒過熱などに至る可能性がある場合に、エンジンECUのROMに記憶されている標準値を使用して制御を続けるか、もしくはエンジンを停止させるシステムである。(表1)

たとえば、水温センサーが断線やショートした場合、燃料噴射量の始動時噴射、暖機増量補正等や、点火時期の暖機補正などをどうすればいいのかわからないので、水温が80℃と仮定して制御を続ける。(吸気温センサーの場合は20℃)

水温80℃であれば、ほぼ暖機後の水温であり、冷機時の増量が無いので、始動性は若干悪くなるかもしれないが、暖機後はほぼ支障なく制御を続けられるので、運転を続けることが可能である。

これが、フェイルセーフと呼ばれる機能である。

ただし、水温センサーや吸気温センサーの場合、信号系統の断線、短絡時はECUが信号系の異常と判断出来るのであるが、特性ズレ(実際は40℃なのにセンサーが間違って20℃と検出した時など)は、異常とは判断できずにフェイルセーフ機能は働かない。

今回は、パワーバランステストを行うために、IGコイルのコネクタを抜いたのだが、トヨタ車の場合、点火1次回路に異常があるとフェイルセーフ機能が働くのである。

表1の「点火信号系」欄の、「フェイルセーフ機能の必要性」にあるように、「点火信号系統で異常が発生し点火が行われない場合、失火により触媒が過熱するおそれがある」となっている。よって、「フェイルセーフ機能」として「燃料噴射を停止する」となっている。

よって、今回、IGコイルのコネクタを抜くとこにより、点火1次回路に異常が発生したので、全てのシリンダの燃料噴射を停止したのでエンストに至ったわけである。

ただし、この全てのシリンダの燃料噴射を停止するフェイルセーフ機能は、平成20年前後までであり、その後のエンジンは、不具合のあるシリンダだけの燃料噴射を停止するのでエンストすることはなくなった。

平成20年前後までのトヨタ車の場合、パワーバランステストを行うには、IGコイルのコネクタを抜くのではなく、インジェクタのコネクタを抜くか、IGコイル自体を浮かして、プラグに火花を飛ばさない方法で行わないといけない。

この車の場合、IGコイル自体を浮かす方法でパワーバランステストを行うと、通常は火花が飛ぶ音がするのだが3番シリンダは、IGコイルを浮かしても全く火花が飛ぶ音がしなかった。

4番シリンダのIGコイルと入れ替えると、今度は4番が失火した。

IGコイルの不良である。

では、なぜ火花が飛んでいないのにフェイルセーフ機能が働いてエンストしなかったのであろうか。

正確な仕組みは不明だが、トヨタの点火システムは、ECUからIGコイルに対して点火指示信号(IGt信号)を出力する。その信号を受けたイグナイタ(IGコイル一体式)が、1次回路が正常であれば火花が飛ぶだろうという推定の元、点火確認信号(IGf信号)をECUへ出力する。(図1)

このIGf信号が3回連続でECUに入力されないと、フェイルセーフ機能が働いてインジェクタからの燃料噴射を停止するのである。

しかし、今回の場合、IGコイル内の1次コイル回路は正常だったが、2次コイル回路に異常があったのではないかと思われ、実際には火花は飛んでいなかったにも関わらず、異常検出は出来なかったようである。

仮に異常検出できるような不具合であれば、初爆だけあってエンジンがかからないという症状が出たのではないかと思われる。

このように、フェイルセーフの異常信号系統に該当する項目でも、全ての不具合に対してフェイルセーフ機能が働くわけではないので、お間違えの無いように。

《技術相談窓口》

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